スポンサーリンク

【古事記】を読もう。鑑賞と研究:伊邪那岐命と伊邪那美命の結婚を読む 『古事記伝』も参照しながら。

記紀研究

今回は伊邪那岐命伊邪那美命の内容を鑑賞しながら、『古事記伝』及び『古事記』理解への一助としたい。各社の解説書を見てみよう。

それを通して私の私見を追加した。『古事記』という偉大な古典であるにもかかわらず、現代人が読んでもやや空想のような現実離れしているように感じられてしまい、それが原因で敬遠されてしまうと思われる。よって、現実の我々の見方にややオブラートして解釈してみたい。

以下は解釈が分かれたり、理解しづらい箇所をピックアップして羅列してみた。

於是天神、諸命以、詔伊邪那岐命・伊邪那美命二柱神「修理固成是多陀用幣流之國。」賜天沼矛而言依賜也。

修理固成(つくろひかためなせ)

 おさめつくる。(岩波) / 修理(つくろ)ひ固め成せ。(小学館) ➡“修理が果たされるのは大国主神の国作りによる。固はただよへるのを定まったものとして「成」は仕上げて完成すること。” / “「修理」は浮漂を整える、「固成」は若き土地を固め国土として完成すること。”(新潮社) /修め理り固め成せ 現代語訳は”国土をよく整えて、作り固めよ。”となっている。(講談社)

としている。

漂える世界がまだ完成していないので、それを完成させることで、修めることができた。どろどろしたものを固めるというニュアンスを受ける。火山の溶岩を連想したのであろうか。

於是天神、諸命以、詔伊邪那岐命・伊邪那美命二柱神「修理固成是多陀用幣流之國。」賜天沼矛而言賜也。

多陀用幣流:ただよへる 漂っている(新潮社)

天沼矛:天つ神の与えた飾りのある矛。(小学館) どうして玉飾りであるか。『古事記伝』には↓

    『古事記伝』:書記に天之瓊矛と書いて、瓊此云努とあれば、沼は借字にてなり、

•矛で海を探る国生み神話は蒙古(モンゴル)に例がある。(岩波文庫注p25)

•言依さしは依す(寄る)の敬語(岩波) 御委任なさったの意。おまかせになった。(梅原猛『古事記』学研) https://amzn.to/3A7ESTD

故、二柱神、立訓立云多多志天浮橋而, 指下其沼矛以畫者、

天浮橋:あめのうきはし 天空に浮かんだ橋(小学館) 神が天上界から地上界に下る場合に、天空に浮いていると信ぜられた橋。(岩波) 具体的に何を指しているか不明。梯子(講談社)

 八十橋という橋があり神代にはあちらこちらこちらに天と行き来する橋があった。

 倉野憲司『古事記全注釈』では「神が天上から地上に降る場合のみ現はれてゐて」降るときのものであるとする。

•沼矛:ぬほこ 玉飾りの矛(新潮社) 

•矛以畫: ここは彼空中(おおぞら)に漂へる物を固めむために、矛以て攪き探りたまふなり

現代語訳:
それによって二つ柱の神が天の浮橋に立って、その沼矛をさしおろし、かきまわしたところ、

鹽許々袁々呂々邇此七字以音畫鳴訓鳴云那志而引上時

•鹽:塩 海水「新潮」 潮(うしお)「講談社」

•許々袁々呂々:こをろこをろ

•畫鳴:画き鳴して⇒かき鳴らして 日本書紀には「画滄海而」とある。滄海(あおうなばら)を画きなして。

•「古事記伝」潮の漸々(やうやう)に凝りゆく状(さま)なり、すなわち許袁呂と凝るとも言も通へり。

•「古事記伝」鳴は借字にして、成の意なり、(省略)古へは鳴(ならす)を那須(なす)といいひし故に、成に此字を借れるなり。

•而引上時:ひきあげしときに

現代語訳:潮こおろこおろにかき鳴らして引き上げたまひし

自其矛末垂落之鹽, 累積成嶋、是淤能碁呂嶋。自淤以下四字以音。

• 其矛末:その矛のさきより

• 垂落之鹽:垂(しだた)り落つる、

• 之を「は」と読むか「の」読むか。

• 累積成嶋:累(かさな)り積りて島となりき。

• 淤能碁呂嶋:おのごろじま。おのずから凝り固まってできた島。

• 海洋型国生み神話(新潮社)と指摘

現代語訳:その矛のさきからしたたり落ちた塩がかさなって島となった。これがオノゴロ島である。

於其嶋天降坐而、見立天之御柱、見立八尋殿。

• 於其嶋天降坐而:その島に天(あま)降りまして。

• 見立天之御柱:天の御柱(みはしら)を見立て、

•見立て:見出し(小学館)、柱を見定めて立てる意(岩波)、

天之御柱: 神霊の依り代とされる聖なる柱(講談社)

•見立八尋殿:「尋(ひろ)」:両手を左右に広げた長さをいう。(講談社)、神聖の象徴としての高さとみるべきもの。(小学館)、八尋殿:大きな家屋、新郎のための婚舎(岩波)

*何もないはずの淤能碁呂嶋に柱と殿とを発見した。と解釈する。(小学館)

現代語訳:(二柱の神は)その島にお降りになって、神聖な柱を立て、広い御殿をお建てになった。

於是、問其妹伊邪那美命曰「汝身者、如何成。」

•汝身 汝:なむち(小学館)、な(新潮社、岩波)  身:み

•如何成:如何にか成れる(小学館)

現代語訳: 妹いざなみの命に尋ねるのには、“あなたの身体はどのようにできていますか”

答曰「吾身者、成成不成合處一處在。」爾伊邪那岐命詔

•成成:成り成りて

•不成合處:成り成り合はぬところ(小学館)、成り合はざるところ(岩波)、

•一處在:ひとところあり。

(現代語訳)私の身体はじょうぶにできていますが、足りないところが一つあります。

我身者、成成而成餘處一處在。

•我身:あがみは

•成成而:なりなりて

•成餘處:なりあまれるところ

 男根、日本書紀に「雄元之処」「陽元」とある(岩波)

•一處在:ひとところあり

私の身体はなり整って、余ったところが一か所あります。

故以此吾身成餘處、刺塞汝身不成合處而、以爲生成國土、生奈何。」訓生、云宇牟。下效此。

•刺塞:交接すること(岩波)

•生成國土:国を生み成さむと思う。(小学館)

だからこの身体の余分なところでお前の身体の足りないところをさし塞いで生もうと思う。生むことはどうだろうか。と仰せになると、

伊邪那美命答曰「然善。」爾伊邪那岐命詔「然者、吾與汝行廻逢是天之御柱而、爲美斗能麻具波比 此七字以音。」

•柱の周りを回る:柱の周りを夫婦がめぐり性交することは、穀物豊穣の予祝儀礼である(新潮社)。

•美斗能麻具波比:みとのまぐはい:「みと」は御所で、ここでは婚姻の場所、「まぐはひ」は目合から転じた交接の意(岩波)。

•麻(ま)は宇麻(うま)なり、宇を省く例多し 具波比(ぐはひ)は(省略)本は久波比にて久波阿比の約りたる言なり(『古事記伝』四之巻)

(現代語訳) 伊邪那美命は「はい、それはいいですね。」と答えた。そして、伊邪那岐命は「それならば、私とあなたで、この天の御柱のまわりを回ったあとに出会い、寝床とで交わりましょう。」と言った。

(原文) 如此之期、乃詔「汝者自右廻逢、我者自左廻逢。」

•之期:ちぎりて:約束して、書紀には「約束曰」とある(岩波)。

•汝:なむち

•我:われ

(現代語訳) そう約束して男神は、「おまえは右から回って会いなさい。私は左から回って会いましょう。」

(原文) 約竟廻時、伊邪那美命、先言「阿那邇夜志愛上袁登古袁。此十字以音、下效此。」

•約竟:約(ちぎ)り竟(をは)りて

阿那邇夜志愛上袁登古袁:あなにやしえをとこを

 あなに:ああ、ほんとうに  やし:感動を表す(講談社)

 えをとこを:「え」は愛すべき、可愛いの意(講談社) 「をとこ」:若い男(講談社)

(現代文語訳) ああなんと素晴らしい男性でしょう。
(原文) 後伊邪那岐命言「阿那邇夜志愛上袁登賣袁。」各言竟之後、

阿那邇夜志愛上袁登賣袁:あなにやしえをとめを

(現代語訳分) 「ああなんとすばらしい乙女だろう。」と言い、それぞれ言い終わって後

告其妹曰「女人先言、不良。」雖然、久美度邇此四字以音興而生子、水蛭子

•不良:よからず(岩波)、よくあらず(新潮)

•久美度:くみど:婚姻の行われる所。(小学館)

•興:興す:行為を始めること。(小学館)

•水蛭子:ひるこ:手足のない蛭(ひる)のような形をした不具の子の意か、または手足はあるが骨なしの子の意か。(岩波)

(現代語訳) 男神が女神に告げて、「女が先に言葉を発したのは良くない」と仰せられた。そうは言いながらも、婚姻の場所で結婚して、産んだ子供は蛭子であった。

此子者入葦船而流去。次生淡嶋、是亦不入子之例。

•葦船:葦を編んで作った船(岩波)

•去:去りき 去(う)てき:ウツはスツの古言(岩波)

•淡嶋:あはしま:「あは」はあわあわとして頼りない意。これも島足りえなかったとする(小学館)

(現代語訳) この子は葦の船にいれて、流してしまった。淡島(あわしま)を生んだ。これも子には入れなかった。

コメント

タイトルとURLをコピーしました